REPO MAN

少年時代は野球選手を目指していたというDadleyのマッチョな風貌と鋭い眼光は、アメリカ国民がイメージするベテランのトラックドライバーそのものだった。ロング・ハウラーと呼ばれる長距離トラックドライバーの日常を歌った”Six Days On The Road”は、そんなDadleyの風貌とマッチして1963年の夏のビルボードのカントリシングルチャートで最高2位を記録するヒットとなった。この曲は、結果的にDadleyの生涯の代表作となったばかりでなく、その後も多くのロックバンドやカントリ・ミュージシャンによってカバーされ、”ロード・ソング”のスタンダードとなった。

歌詞に描かれているのはひた向きでたくましいトラックドライバの姿。それはフォークソング(アメリカ民謡)としてのカントリミュージックが一貫して肯定してきたワーキングクラスヒーローの姿でもある。 粗野で野蛮なところもあるが働き者で、過酷な仕事も苦にしない。家族を愛し、仲間とは連携し助けあうが、役人や政府の規制・介入を嫌悪する。歌詞をなぞっていくと曲の主人公となるトラックドライバのそんな人物像が浮かび上がってくる。Dave Dadleyのドスのきいた歌声は、そんな歌詞にリアリティと説得力を与えた。聴衆はカウボーイもアウトローも居場所を失って絶滅してしまった20世紀のアメリカ国内にあって、粗野でストイックな埃まみれのヒーロー像をトラックドライバの姿に求め、この曲を支持した。

ビッグリグ(Big Rig)の愛称で親しまれている大型(18輪)トレーラ(トラクタ)は今でも、アメリカ国内の主要な長距離輸送手段であり、州間を結ぶ主要幹線道路の景色の一部として欠かすことのできない存在となっている。特にスリーパと呼ばれる寝台キャビンを備えた18輪トラクタ(Eighteen Wheeler)は長距離輸送を担うロングハウラーの証しだ。ライセンスや牽引のロード・キャパシティは州によって独自の規制があるが、一般的に中西部に向かうにしたがって牽引するトレーラのサイズや数が大規模化し、ご当地では日本では考えられないような編成のトレーラを目にすることができる。

ほとんどのビッグリグはシンクロなしのマニュアルのミッションのため、一般の乗用車のドライバではハンドル操作以前にギアチェンジさえままならないという。しかも前進だけで少なくとも10段、最新の機種では多ければ18段からの変速ギアを使い分け、これをダブルクラッチで繋いでいく。ブレーキにしても同様、トラクタ側とトレーラ側のバランスをとりながら、複数のブレーキを使い分けることが要求される。ドライバは常に積荷の重さ、種類、重量配分、重心の位置やそこにかかっている慣性を意識している必要がある。不用意にブレーキを踏めば、トレーラからの突き上げでトラクタはコントロールを失う。コーナや路面凍結時などはこの結果、ピボットと呼ばれる連結部を基点にジャックナイフのように折れ曲がってしまう現象を招く。一見豪快でパワフルなビッグリグを安全に操作するには、こうした繊細な状況判断と修練を必要とする。 Six Days On the Roadの歌詞には”ジョージア・オーバドライブ”というフレーズが出てくるが、これはCBなどで普及したトラックドライバ仲間のスラング(半ばジョーク)。下り坂でギアをニュートラルにし、エンジンブレーキをきかせずにフル加速を得る武勇伝がCBの会話の中で面白ろおかしく語り継がれ誰ともなくそんな風な呼び名が広まったものだ。

ICC is checking on down the line

ドライバに求められるのは運転技術だけではない。トラックの運行に関しては州ごとのドライバ・ライセンスの管理のほか、ICC(Interstate Commerce Committee - 現STB Surface Transportation Board)、FMCSA、DOTなど複数の監督官庁がそれぞれの権益範囲についての細かな規制を課している。連続運転時間の制限、積荷の積載制限、積載方法に関する規定、ドライバ達はこうした複雑に入り組んだ規制体系や法規を理解すると同時に、その遵守が求められた。本来、こうした規制は安全性の確保やドライバの処遇改善を目的としたものだが、役人が机上で思いついた規定には、運航上でかえって危険を増加させるような非現実的な制約も少なくなかった。トラックドライバたちはICCによる過積載の取り締まりに対し、CB無線などで情報を交換しあった。また連続運転時間の規制などに対しては、通称コミック・ブックと呼ばれる実際の運行記録とは別の記録簿を作成して、それを役所に提出する手法も流通した。

有名なアメリカのハイウェイの制限速度55mphもそのようなドライバ達の結束と連帯を強めたひとつの例と言える。1973年、OPEC諸国が原油価格の引き上げを発表しオイルショックがおきると、アメリカではこの状況への対応措置のひとつとして、石油消費の節約に国策として取り組むことになった。ハイウェイの制限時速の引き下げもこの一環として実施された。1974年 Emergency Highway Energy Conservation Actが議会を通過しアメリカのハイウェイの制限速度は55mphで全国統一されることになった。最高速度を55mph(時速88キロ)に制限することで合衆国全体で約2%の燃料消費の節約を狙うというものだったが、長距離輸送のトラックドライバ達にとっては特に距離を稼ぐことができた地方の路線にまでこの規制が及んだことは死活問題でもあった。

Convoy

”スピードが下がって、事故で怪我する人がほんの少し減ったのはよかったが、その結果、大勢の人が遅刻した。”
55mph導入時のジョークだが、州ごとに導入の足並みがズレたことなどもあり、この規制を理由に輸送業務の納期が緩和されたり、見直されたりする法的な配慮・バックアップはなかった。
一方で、地方警察は安全上の見地からではなく、取締りがしやすい場所に網をはって、スピード違反者からの”水揚げ”を伸ばす傾向が強まった。取り締まりがしやすい場所とは、長距離ドライバにとっては長旅の中で効率的に距離を伸ばすための貴重な区間、すなわち安全にスピードが出せる見晴らしのいい直線や、きつい登坂直前で特に重量物の搬送時にはどうしても加速が必要な区間などを意味した。こうしてスピードトラップの格好の餌食となったビッグリグのドライバ達は自衛手段としてコンボイと呼ばれる集団走行で対抗した。コンボイとはもともとは軍事上の戦術用語で、艦船や航空機が集団で移動したり、作戦展開するときの船団や編隊を意味する。ドライバ達は仲間と連絡、連携し、ビッグリグであたかも護送船団のごとく編隊を組んで、集団走行することで、こうした区間の取り締まりをかく乱し突破した。実際にどれだけ頻繁にこのようなオペレーションがおこなわれたかは不明だが、”コンボイ”はトラックドライバ達の結束と連帯の象徴となり、西部劇の名将サム・ペキンパが監督をした1979年のトラッカーを主人公とする映画のタイトルにもなった。

Will the wolves survive ?

しかし、そんな自立とたくましさの象徴、ワーキングクラス・ヒーロとしてのトラック・ドライバを取り巻く環境も21世紀を迎え変化が訪れつつある。デジタル技術やネットワーク通信の進展によりGPSによる車両の運行状況を監視するシステムが開発され、長距離トラックの運行状況監視にも導入が進んでいる。法人管理の車両を中心に、今や車両の位置、状況把握、運転時間の監視はリアルタイムで遠隔監視されるようになりつつある。”コミックブック”でどうにでも役人を欺くことができた時代は過去のものとなりつつある。政府はこのシステムの普及を個人オーナの車両にも拡大していく方針を打ち出している。また、これは先進国共通の問題でもあるが、ドライバ年齢の急速な高齢化が進んでいる。日本の2007年問題と同様、これらベテラン・ドライバ達が今後数年のうちに一斉に退役を向かえると予想されており、業界では深刻な人手不足の到来を懸念している。カウボーイの時代から連綿と受け継がれたヒーロ像をよそに、若者の3K労働”離れ”はアメリカといえども例外ではなく、この傾向に拍車をかけている。Six Daysのタイトルを持ち出すまでもなく、家族を離れての長期連続勤務など過酷で危険な割りには相対的に賃金の低いこの業界をめざす若者は減少傾向にある。自由・自治と独立の象徴、現代を生きるカウボーイとしてのトラックドライバ像は今岐路にさしかかっている。

トラックドライバに運転中に口ずさんでいてほしい曲。