クラウン・センチュリークラスになると使用されているハーネス(電気配線)の数は2000を超え、その総延長は3Kmを超えるそうです。排ガス規制後に燃料噴射の電子制御化が急速に進むとCPUやセンサを繋ぐ電装が自動車の電化の複雑さを加速させました。時期を前後して快適性の向上も貪欲に追及されるようになり、パワーウィンドウ、アンテナ、ミラー、シート、スライドドア、ステアリングのパワーアシスト、ドアロック、ナビゲーション、ETC、とにかく考え付く装備は片っ端から電動化されてきました。だいたい考えてみればハイブリッドだ、EVだと、原動力自身も電気化される時代になりました。運転さえも技術的には完全自動化が可能なレベルにあるとかないとかいう話も聞きます。制御するのはセンサでありコンピュータであり、つまりは電気。もはや運転手が居眠りすると起こしてくれたり、衝突しそうになるとブレーキかけてくれる車も普通に売られているそうで。。

そんなオール電化時代に全く逆行する話になりますが、エンジンは付いているけれど電装やハーネスが取り去られた車が手元(庭先)にありまして、これに何とか動くようにしたいという必要にかられました。というのも動かない車は本当に邪魔なもので、数メートル移動するのも一苦労です。まして横には動かせませんし。。。

で、移動のためにも何とか最低限の回路を新設して自走できるようにしたいと考えました。車検を取るつもりはないので、とにかく動くためのミニマムの電装ということで。あたりまえですが、車の電装はあると便利だけどなくてもなんとかなるものと、ないと車が動かないものがあります。ここでは後者の中でも究極的に必要かつシンプルなものに絞っていったときに何が必要か、その回路を考えてみたいと思います。

コンピュータを使っていない車の場合、車の走行に最低限必要な電装(エンジンエレクトリカル)は基本的には以下の3系統(但し、燃料ポンプが機械式でなく電磁ポンプの場合には4系統?)ではないでしょうか:即ち@ エンジンを始動する回路 A圧縮混合気に点火する回路 B発電してバッテリに充電する回路 (C燃料を圧送するポンプの回路)。

突き詰めて考えると@の始動に関してはかつては手動のクランキングでエンジンを始動する車もありましたし、小排気量の単車などではいわゆるキックによる始動、マニュアルミッションの4輪では押し掛けという手動始動テクもあります。またBの発電についても、とりあえず短時間動かせはいいということであればフル充電のバッテリーがあれば発電がなくても1時間ぐらいは普通に車動かすことができる場合もあります。だから本当の究極と言う意味ではAだけという考え方もありますが、この3セットがそろって初めて始動して走り続けるという基本動作が一通りできるようになるわけで、この3セットの回路の新設を目標としたいと思います。

@ 始動系 セルモータ、マグネットスイッチ

A 点火系 コイル、ディストリビュータ、スパークプラグ

B 充電系 オルタネータ、レギュレータ

必要となる周辺パーツとしては、この他にバッテリ、ヒューズボックス、ヒューズ、イグニッションスイッチ、スタータスイッチ、配線用ケーブル適宜、接続端子各種。

それぞれのパーツのどの端子に何をつなぐ、という配線方法をおさえれば目的は果たせますが、それだけではトラブル時の応用もききません。前置きしたように作動原理や理屈を整理しながら作業の要点を整理してみることにします。

 

 

理屈を知らないまま、線と線をやみくもに繋いでいても面白くありません。実作業の前に理屈の整理から。エンジン始動のための回路は2つあります。ひとつはスタータモータ自身を回転させるための電流を流す回路。エンジン始動のクランキングには強大なトルクが必要なため、大電流が流れます。もうひとつはこの大電流のON−OFFを室内からコントロールするためのマグネットスイッチの回路。マグネットスイッチはスタータモータ用の電流のON-OFFと同時にレバーを介してセルのピニオンギアを押し出し、フライホイールとセルモータのピニオンギアとの物理的断続(噛みあわせ)もコントロールしています。

実際にはスタータモータとマグネットスイッチは一体となっています。どちらの回路もマイナス側はスタータの固定ボルトを通じてエンジンブロックもしくはミッションのケースに接地アースされているので、セルモータ本体につながっている配線は2本のみ。大電流が流れるスタータモータ回路はバッテリから太いケーブルが直接配線されているので、簡単に区別がつきます。マグネットスイッチの回路はセルの回転の間だけ接続し、エンジンの始動と同時にOFFにする必要があるので、ボタン式やリターンスプリングのついたスイッチとした方が扱いやすくなります。

 

 

 

 

 

 

 

 

不動車や長期放置車両の場合、キーをひねってもカチンという音だけで、セルがまわらない場合があります。これはマグネットスイッチのレバーが固着しているとかフライホイールとモータのギアが噛み込んでしまっていることが原因の場合が多いです。ハンマの柄などでこづくと何事もなかったかのように復活することも多いです。また、セルモータの回転には強大な電流が必要となるので回路のケーブルの劣化や端子・接続部の接触の不良によって、セルの回転、始動が極端ににぶくなってしまいますので注意が必要です。

また、基本ですが不動車ではセルの始動の前にエンジンにオイルが入っているか、プーリーにレンチをかけてクランキングさせることができるか(エンジン自身は固着していないか)等、セルや回路以外の要素はあらかじめチェックしておく必要があります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無事セルが回ったら、次は点火系統にトライしてみます。

やはり、まずは理屈をおさえましょう。点火系統もおおまかには2つの回路からできています。ひとつは点火コイル内にあるコイル(1次コイル)に電流を断続的に流す回路。もうひとつは、この1次コイルに電流が遮断されたときに、電磁誘導作用によりコイル内のもうひとつのコイル(2次コイル)に発生する12000V〜15000Vの高圧電流が流れる回路。実際に火花を飛ばすのはこの高圧電流の方で、接続にはハイテンションコードと呼ばれる専用のケーブルが使われています。1次コイル側の回路は12Vの電流の断続のタイミングをコントロールすることで火花の飛ぶタイミングを制御します。

コイル

2次コイルに高電圧の発生する原理は、電磁石の自己誘導作用、相互誘導作用という現象を利用しています。一般的な現象として、コイルに電流を流すと磁力が発生しますが、この電流を遮断すると、一時的に磁力を保とうとする力が作用して逆起電力と呼ばれる電圧が生じます(自己誘導)。また、コイルのそばにコイルをおいて片方のコイルに電流の変化(=磁力の増減)が発生すると、もうひとつのコイルに起電力と呼ばれる力が生じて電圧が発生します(相互誘導作用)。さらにその2つのコイルの巻き数に差をつけると発生電圧にも差が生じさせることができます。1次コイルで電流遮断時に起電力により発生する電圧は300Vにものぼり、さらにこの電圧発生による相互誘導作用で2次コイルには12000V〜15000Vの高圧電流を発生させることができます。(後述のトランジスタ点火では、この1次コイルの逆起電流がトランジスタを破壊しないようにダイオードが用いられます)

ディストリビュータ (デスビ)

ディストリビュータはキャップ部分とボディの部分で別々の役割を果たしています。ボディ部分のカムとコンタクトポイントは接点を開閉することにより一次コイルの電流の断続させ、2次コイルの高圧電流の発生のタイミングをコントロールしています。ディストリビュータの2階部分(デスビキャップ+ロータ)はコイルで発生した高圧電流を各シリンダに流し分ける役目を果たしています。1階部分は12Vの電流でタイミングを制御、2階部分は15000Vの電流を各気筒へ配分、と別々の仕事、回路を扱っています。実際の配線作業の接続方法や各パーツの外観については写真の通りです(ただし、ポイント式の例)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

以上はポイント式の場合の回路ですが、昭和50年くらいから以降の車にはセミトランジスタとかフルトランジスタ式と呼ばれる点火方式が採用されている場合があります。

セミトラはポイント式と同じくコンタクトポイントを用いて機械的な電流の断続を行います。ポイントとの違いは、コンタクトポイントに流れる電圧が0.5V程度の微弱なものに抑えられている点です。トランジスタによる増幅機能を利用して、接点を通過する電圧をできるだけ微弱なものに弱めることでポイントの負荷、劣化を防ぎ、点火精度や耐久性を向上させるメリットがあるとされます。

フルトラは機械的な断続機構であるコンタクトポイントそのものを排除して、電磁コイルや光センサを用いて無接点で信号発生をおこない、その信号をトランジスタで増幅して2次回路の電圧発生タイミングをコントロールする機構です。物理的な接点をもたないことから、耐久性や高回転でのタイミング精度をさらに向上させるメリットがあるとされます。

判別方法として、フルトラやセミトラの場合、点火コイルの上にイングナイタと呼ばれる四角いトランジスタ回路がくっついていいます。さらにデスビの中をのぞいたときにコンタクトポイントがあればセミトラ、リラクタと呼ばれる接地点をもたない機構になっていればフルトラということになります。

ちょっとやっかいなのは、セミトラやフルトラには後付けの社外品のものも多く、回路や配線にバリエーションがあることです。ただし、セミトラの場合には基本的にはポイントが残されているはずなので、最後はイグナイタを経由する回路をスキップして、もとのポイントの回路で繋げばそれでも点火回路としては成立するはずです。(下図、青色部分を省略して、コイルの一次回路マイナス端子とポイントの配線を復活させればポイント式に戻る。)

セミトラ (青色部分をバイパスすればポイントにもどる)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フルトラ (ポイントがなくなり、一次電流の断続回路から消耗部品をなくすことができる)

 

 

始動系と点火系が完成すればエンジンは始動可能となりますが、発電機能がないとやがてバッテリを消費してしまうので走り続けることはできません。始動、点火、発電の回路が完成すれば、車が始動し走り続けるためのエンジン系の電装の主要な機能がそろったことになります。

発電系統は以下の3つのステップがそろってはじめて機能します。

@ 発電(ただし交流) Stator

A 交流を直流に整流 Rectifier

B 発電電圧を監視、15V以下に制御 Regulator

Bの制御を電磁リレーを使って接点の開閉で管理するタイプはチリル式とよばれ、リレーの物理的なサイズから、オルタネータとレギュレータは別体になっています。トランジスタを埋め込んだ集積回路で管理するタイプをIC式といい、小型化できることからオルタネータに内臓されています。近年の高性能化したオルタネータはほぼ全てIC化されており、もともと外付けレギュレータタイプの車にICオルタネータを流用する場合には配線や端子の数が異なってきます。

実作業に際してはオルタネータのケースにキャストされている端子の略記号を頼りに、どの端子がどの役割かを区別します。ICタイプとチリル式では必要な接続端子や端子の略記号が異なっています。また、オルタネータの製造メーカによって、この端子の略号に若干のバリエーションがあるようです。

それぞれの略記号の意味や各端子の役割を知っていた方が選ぶべきケーブルの太さや応用がきき、理解度も深まると思います。

外付けレギュレータの端子

A: Alternator Currentの略でしょうか。直流に整流された発電電流をオルタネータから出力してバッテリに送り充電させる端子。また、レギュレータはこの端子から発電電圧を検出し、F端子を通じてオルタネータに送られる励磁電流の増減を制御する(VC2)。

IG: Ignition端子の略。Ignition電源を取る端子。発電装置なのに発電には電源を必要とします。F端子を通じてオルタネータの初期励磁のための電流を送るための電源取り込み端子。

F: Field Coil端子の略。発電開始のきっかけとなる励磁電流をオルタネータへ送る端子。

N: Neutral Sampling端子の略。ステータの中性点での電圧検出のための端子。この回路の電流が流れるとリレー(VC1)の働きによりL端子の回路が絶たれてチャージランプが消えます。

L: Lamp端子の略。ステータでの発電が認識されるとリレーにより消灯。

E: Earth端子の略。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IC内臓オルタネータの端子

B: Battery出力端子。発電電流をバッテリに送りだす。

IG: Ignition電源端子。発電を開始するための励磁電流をIG電源から得る。

S: Sensor端子。バッテリ付近から発電電圧を検出するための端子。ICでここから検出した電圧が12V〜15Vになるように管理。

L: Lamp端子。チャージランプの接続用端子。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

S端子、L端子についてはケースにキャストがないものもありますが、そんな場合には左のようにコーションステッカーに図示されていたりします。(左下、凸型の枠はコネクタの形状とそれぞれの端子の位置を示していると思われます)